※雲雀が女の子です注意!メルヘンチック10年後のふたり。捏造も甚だしい。



 きらきらきら、輝く7色の雪はゆっくりと舞い上がって、そして落ちてゆく。ガラスの中に住む今にも手を取り合って 踊り出しそうな妖精たちはその光を浴びて嬉しげに微笑んだ。
 わぁ、すてき! 歓声を上げた凪に気に入ったのならあげるよと言うと、彼女は普段からは想像もつかないくらい大きな声で名前を呼んで怒った。 きらきら輝くスノードーム。どう考えても贈る人を間違えたとしか思えない。
 結局おもちゃは凪によってベッドサイドのチェストへと置かれてしまい、彼女は部屋に遊びに来るたびに雪を舞い上がらせては喜んでいる。 ふわり、7色の光が降りそそいでゆく。精巧に作られたファンタジーの世界。幸せそのものを模したような空間。 それがあの男の最初の贈り物だった。



 ゆさゆさと無遠慮に肩を揺さぶられている。 起こそうと必死なのだろう、ごろんと仰向けにされて軽く頬を叩かれた。 凪か綱吉かは知らないけれど放っておいてほしい。第一、今日はオフじゃないか。 おまけになんだか眩しいし、騒がしい。
 うるさい、そう張り上げようとした声は別の声に遮られて、そして意識は完全に覚醒した。
「起きてください、お嬢さん!」
 お嬢さん?…誰が。
 目の前にいたのはお化けだった。 上半身は人で、下半身は山羊、なのだろうか。頭からは小さな角がにょっきりと生えている。 そのお化け(凪が聞いたらお化けじゃなくて妖精よ!と嘆くんだろうけど妖精も妖怪もあまり違わない)はおろおろと顔を覗き込んでああよかった、と呟いた。
「こんなところで眠っては危ないですよ。踏まれてしまう」
 起こした体のすぐ横をピンヒールがステップしていった。 流れるワルツ、天井から降りそそぐ花と7色の星、手を取り合って踊る妖精の群れ。 おとぎ話のような場所にくらくらする。
 ぼんやりと座り込んでいると、山羊足がぐいと手を引っ張って立ち上がらせた。
「今日はお祭りですよ。と言ってもここではいつでもお祭り騒ぎなんですけれどね」
 1曲お相手を、くるりとターンさせられて始めてドレスを着ていることに気がついた。 リトルブラックドレス。普段着ることもないそれは肩も膝も剥き出しで心許ない。 山羊のお化けは器用にくるりくるりと自分をリードして、手を離したかと思えば次に手を握ったのは真っ白な一角獣だった。 自称家庭教師の匣兵器を思い起こさせるそれに笑いを堪えていると、それは驚くことに話しかけてきた。
「ダンスは始めてで?」
 言いながら腰に添えた手で器用にくるりとターンさせられる。 一角獣がどうやって、という感じだけれどとにかくそれはそうしたのだから仕方がない。
「簡単です。同じことの繰り返しをしてダンスの相手を変えていくんですよ。」
 くるり、くるり。ワルツに合わせてドレスをひるがえす妖精たち、一角獣にフォーン、小人に魔法使い。
「それではごきげんよう、麗しいお嬢さん」
 ウィンクをして離れた一角獣の次に手を取ったのはよく知った顔だった。
「雲雀」
 ああ、そうだ。ここは彼の世界だ。
 そのまま手を引かれてダンスの列から離れる。慣れない高いヒールに苛立って無理に大きな歩幅で歩けば勝手知ったる手が腰を抱き寄せた。 踊り場から離れた大きな木の下、目ざとく寄ってきた熊の給仕からシャンパンを2つ受け取って男は綺麗に笑った。
「お久しぶりです」
 ダークグレーのスーツにライトピンクのベストを合わせたドレスアップは嫌みなくらいに彼によく似合っている。 これまたご丁寧に胸元にフクシアピンクのバラが1輪さしてあって、それには見覚えがあった。
今年の誕生日にドアを開けると凪が立っていて、馬鹿みたいに大きいバラの花束とバラの形をしたピンクダイヤモンドの指輪を持っていたのだ。 来たるべき日のために、そう書かれたカードになぜか彼女が照れながら「これ骸さまから、」と言ったときは本気で閉め出してやろうと思った。 一度もケースから出さないままにデスクの上に転がしてあるはずのそれは今、左の薬指にしっかりと収まっている。 夢の中のはずなのに口にしたシャンパンはほんのりと甘かった。
「悪趣味な幻覚だね」
「君が呼んだから来たんですよ。寂しかったのでしょう?」
 茶化すように笑う男に馬鹿じゃないのと吐き捨てて背を向ける。そんなの、決まってる。
「つまらないよ。赤ん坊も綱吉も本気で相手してくれないし」
「そうでしょうね」
「……寂しいのかな、ほんの少しだけ」

 ねぇ、いつ戻ってくるの。いつまであんなとこにいるの。いつまで待たせるつもりなの、いつまで。

「はやく、」
「はい」
「早く帰って来なかったら綱吉を誑かしてボンゴレを乗っ取ってやるから」
「おや、それは怖いですね」
 少しもそう思っていない声が柔らかく肩を抱く。 結局は嫌いになれないのだ。気紛れに現れて自分をかき乱す身勝手さも、優しいふりをした指の温度も何もかも、すべて。
「近いうちに必ず戻ります」
「半年以内に出て来なかったら君なんて振ってやる」
「今度は本当ですよ」
 宥めるようにキスをされて、悔しいけれど許してしまう。 自分よりも随分と高いところにある肩に腕を回して、こちらから2回目のキスをした。

 きらきら、7色の雪はやむことなく降り続けている。ふわりと舞い上がってはまた落ちてゆく。
「折角、こんな所にいるんですから1曲僕と踊って行ってください」
 流れるように差し出された手をきっかけにワルツのテンポが変わった。 お手をどうぞ僕の恋人、差し出された手に右手を重ねれば歓声が沸き起こる。
 ワルツの洪水、降りそそぐ花びら、すぐ側にいる愛おしい人。 手を握れば強く握り返される、その温もり。
 そして世界に飛び込めばふわりと輝く7色の雪が舞い落ちていった。




スノードームロマンス