少し、病的なのかもしれないと思う。いくらでも眠ることが出来るのだ。寝溜めがきくとかではなく、それこそ三日三晩くらい眠り続ける ことが出来る。最長記録は十日間でその時は呆れられるのを通り越して泣き付かれた。確かにおかしい。 けれど常識ではかろうとする方が無謀なような気もする。なにせ人とは色々と勝手が違うもので。

 疲れたとき、距離を置きたいとき、ベッドに潜り込んでスイッチを切る。そうするとぱたりと深いところに行くことが出来る。 そこはいつもの浅い眠りではなく、深海を思わせるような暗くて哀しいところだ。
 体の上をさらさらと時が流れていく。透明で、澄んでいて、それでいて海面が見えることはない。寒いような寒くないような、 不思議な場所だ。ぼんやりと上を見ていると哀しい気分になる。どこか心地よい哀しみ。じわじわと僕を染めていくそれが嫌いではない。 居心地がよくて、何時までもいてもいいかと思ってしまう。
 眠りに就いてどれくらいたっただろうかだとか、そろそろ誰かが心配し出すかなとか、そんなことを思いながら目を閉じる。 今はもう少し眠っていたい。

 突然、ぱちんと光が弾けた。
 なにも見えなかったはずの水面に光がゆらゆらと漂って、綺麗なブルーが輝いていた。ああ、呼ばれたのだ。吸い寄せられるように 光に近付いて、あたりは真っ白になった。
 開けた先に不機嫌極まりない顔が映り込んで、思わずシーツに潜り込もうとしたところを首を捕まれて引きずり出される。 気持ちよく寝ていたのにあんまりだ。
「痛いですって」
「当たり前だろ、乱暴にしてるんだから」
 いつまで寝てるの、呆れたような声が好きで寝ぼけたふりをしてもう一度言ってください、と言えば更に機嫌を損ねた声が、は? と返してきた。きみのその言葉が聞きたくて帰ってきている。口に出せば今度は手が出るだろうから僕は心のなかで叫ぶ。アンコール!
 ひばりくん。きみを呼ぶ声が掠れている。ようやく振り返った肩を抱き寄せれば観念した掌が額に触れた。唇が近付いて目を閉じて、そして。

 きみの声と温度が僕をこの世界につなぎ止めている。





一生分のキスをください

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