雪解けを待って伊達が動いた。
弥生も半ば、北に放っていた配下から知らせが届いた。春とは名ばかりの雪が漸く退いた奥州で不穏な動きあり。
待ち焦がれた季節の到来に気の早い鶯が頻りに鳴いている、と。知らせを受けたその足で飛んでみれば見事、陣ぶれに遭遇したというわけだ。
濃紺に黄金色の満月が幾筋も立ち上り晴天を染めている。凛と張りつめた空気のなか、地を震わせるように法螺貝が響き、
つわものたちが声を挙げる。冬のあいだ、雪に凍える国では戦は出来ない。血の気の多い男たちには気が遠くなるほどに待ち遠しい春
であろう。あたり一帯は異様な熱気に包まれていた。
ふいにひときわ高い歓声が上がって姿を現したのは愛馬を引きつれた奥州王だった。晴れ渡る空より鮮やかな蒼を纏ってこうべには三日月の光を
頂いている。
若い主が現れた途端にぴりりと緊張が走った。すべての者の信頼と命を背負って立つ伊達は不遜で獰猛で、そして爽やかだ。
鋭く、うつくしいいきもの。きっとそういった生き方しか出来ない。伊達の傍には栗毛の馬に乗った軍師がぴたりと寄り添っていた。
びゅうと一陣の風が通り抜け、青年王が振り返って叫ぶ。異国の言葉だ。湧き上がる咆哮、空を裂いてどうっと軍が流れ出す。
靡く旗印は瞬く間に遠くへと消えた。
――やれやれ、
まとわりついた木の葉を払って佐助は屈んでいた樅の木から立ち上がる。
去り際、伊達の唇が唱えた紅蓮の獅子の名を優秀な忍びの目は見落とさない。今度は敵同士、存分に仕合えると爪を研いでいるのだろう。
まったく厄介な男である。敵軍を見送って佐助も南へ飛んだ。
戦が、始まろうとしている。
天裂く蒼よ
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